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陸から海への回帰~クジラの祖先
名古屋訪問Ⅱ~名古屋港水族館編・第8回


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「陸を歩いていた時代の"クジラ"」


「進化の海」のエリアの後半です。
前回は現存する「クジラ」の仲間の骨格標本を紹介しましたが、今回はその祖先たちについてです。
世界最大の哺乳類「シロナガスクジラ」も擁する「クジラ」の仲間たち。
その祖先はどのような生きものだったのでしょうか?
ここではいくつかの化石標本などを通して、その祖先たちを紹介しています。

「陸から海へ「クジラは昔、陸を歩いていた・・・」  クジラの祖先はどんな動物だったのか?
 今日のクジラたちの祖先が、はるか昔、陸を歩いていた・・・と言ったら、にわかに信じることができるでしょうか?
 それもオオカミほどの大きさの動物がルーツであるとは。少なくとも現在そう考えられています。
 では、クジラたちはいつ、どのように海の生活に適した体に変わっていったのでしょうか?長い間、古生物学者は、
 なぜ、水中生活に適応する過程のわかる化石が出てこないのか・・・に悩み、手掛かりを求めつづけました。
 1832年「爬虫類の王様」という名を持つ始新世(ししんせい)・後期の巨大なムカシクジラであるバシロサウルスの化石が
 発見されましたが、はじめは大きなトカゲと考えられていました。
 1983年にはパキスタンで5200万年前の始新世・中期の地層からクジラの祖先と言われてきたメソニクスに似ている
 発展途上のクジラの化石・パキケタスが発見され、クジラの進化の謎が少しづつ解明されてきましたが、
 1992年にはパキケタスが発見された地層よりも少し新しい地層から"泳ぎ、歩くクジラ"という意味をもつ
 アンブロセタス・ナタンスの化石が発見されました。
 これは、陸から海へ移行するクジラの中間的な化石で、立派な前足、後ろ足をもちながら、泳ぎに適応するための
 水掻(みずか)きをもっていたクジラでした。これらのクジラの祖先の化石が発見される場所が、ヒマラヤ山脈の
 南側に集中していることからクジラたちの故郷は古代の海・チーチス海にあったと考えられています。
 今後の新しい発見が待たれます。」

※説明板より引用、以下同じ


表紙の写真は、地上で生活していた「ムカシクジラ」の想像図です。
見た目は「哺乳類」というよりは「爬虫類」って感じ。
「クジラ」というよりは「ワニ」の方がイメージに合うんですけど、進化ってそんな単純じゃないんですよね。


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形態変化に見る「クジラ」の進化。
上から順に新しい時代になっていきますが、それにつれて足が徐々にひれへと変化しているのがわかります。
「地上を歩く」から「水中を泳ぐ」へと適応していっているんですね。


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「歩くクジラ」の意味を持つという「アンブロセタス・ナタンス」
先の図でもっとも上に描かれている種です。
まだ後足が地上でも生活できるような形状になっていますね。
地上で主に生活しつつ必要に応じて水中にも入る、といった感じでしょうか。

「ムカシクジラ亜科 陸から海への移行期を示すムカシクジラの一種
 アンブロセタス・ナタンス  Ambulocetus natans  初期~中期始新世(約4900万年前)
 ■体重はおよそ300kgと想定され、大きくて強力な後足、細長い尾の存在は、まだ歩くことが多かったことを示しています。
  指の末梢骨(まっしょうこつ)にはメソニクス類と同じような小さな蹄(ひづめ)があると言われています。
 ■背骨は柔軟な動きができるようになっていて、頭骨や歯は、他のムカシクジラ類に似ています。
 ■まさに水陸両方に適応した中間的な動物として注目されています。
  産出地 パキスタン北部クルダナ累層  原標本 ミシガン大学所蔵」



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「アンブロセタス・ナタンス」の想像模型。
たとえが難しいですが、なんとなく「カバ」を前後に引き伸ばして細長くしたようなイメージかな?


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続いては「バシロサウルス・セトイデス」
図ではもっとも新しいグループに属する2種のうちの1つです。
全体を収めることができなかったため、頭部付近だけになってしまってますが(^^;
まるで「恐竜」のような名前がついていますが、発見当時は「トカゲ」の仲間と考えられていたため。
これは発見された個体の体長が20m近くもあったということも影響しているようです。

「ムカシクジラ亜科
 バシロサウルス・セトイデス  Basilosaurus cetoides  始新世
 ■原始的なクジラの中で、最も大きな種類。発見当時、あまりにも長い胴体であったために大型のトカゲ類と考えられ、
  "サウルス"という語尾がつけられました。
 ■後に、ムカシクジラの一種であることが判明しました。
 ■体長20mにも及び、背骨の数が増え、一つ一つの背骨の椎体(ついたい)が前後に長くなって、体が長大化しました。
 ■外鼻孔は吻(ふん くちばし)の前方に開き、鼻骨も前頭骨(ぜんとうこつ)もそれほど短縮せず、
  頭蓋(とうがい)の扁平化があまり進んでいません。
 ■大きな特徴のある歯は、哺乳類の原型に近い「異形歯」(いけいし)です。
  産出地 北アメリカサウスカロライナ州ジャクソン層上部のサンデー石灰岩層  原標本 ミシガン大学蔵」



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「バシロサウルス」の歯のアップ。
歯の形がこの写真の左半分では先端が奥側に倒れた円錐型、右半分は三角形と形状が異なっていることがわかります。

「ムカシクジラ亜科
 バシロサウルスの歯  Basilosaurus cetoides  始新世
 ■これは、遊離したバシロサウスルの「歯」です。
 ■ムカシクジラがどんな生活をしていたかは、まだ正確にわかっていませんが、この歯の様子から判断すると、
  比較的浅い海に住み、魚や貝を捕らえて噛み砕いて食べていたと想像されています。
 ■奥の方に生えている歯は、特徴があり、人喰いザメのように前後に薄い三角形で、前後の縁に4個づつ
  鋸歯が発達しているのがよくわかります。」



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「バシロサウルス」とほぼ同時期に生息していた「ジゴリーザ・コッキィ」
前足は骨格が横に広がっていることから、歩行にはあまり向かない構造になっています。
また後ろ足はこの写真では「肋骨」に隠れてよく見えませんが、退化してしまっています。
陸上ではなく水中での生活に適した体の構造ができあがってきたといえそうですね。

「ムカシクジラ亜科
 ジゴリーザ・コッキィ  Zygorhiza kochii  後期・始新世(約4000万年前)
 ■ムカシクジラ類の中で、最も今日のクジラのような体型となったものの一つです。
 ■前足は、泳ぐのに適した「ひれ状」に近くなり、後足は、退化して役に立っていません。
 ■腰から尾にかけての背骨は、かなり長く伸びています。頭は背骨全長の6分の1ほどの長さで、細長い三角形で
  扁平化しています。
 ■外鼻孔(がいびこう)は、頭部のかなり前方に開いています。
 ■歯は、哺乳類の基本的な数から構成されていますが、形は魚食性を思わせる円錐形(えんすいけい)で、
  サメの歯のような鋭い鋸歯をもっています。
  産出地 北アメリカ」



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「ジゴリーザ・コッキィ」の想像模型。
流線形をした体に大きな「胸びれ」と横を向いた「尾びれ」を持ち、後ろ足はわずかに突起があるのみ。
現在の「クジラ」の仲間にかなり近いシルエットになっています。
ですが「外鼻孔」「吻」の中ほどにあり、進化の過程にあることがわかります。


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「外鼻孔」の位置の移りかわり。
「ジゴリーザ・コッキィ」は地上生活哺乳類と水中生活哺乳類の中間的な立ち位置なんですね。


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脊椎は7個ありますが、その長さはずいぶん短くなっています。
これはここに展示されている「シャチ」の骨格などでも見ることができます。
水中を速く泳ぐのであれば、首は短いほうが都合がいいですからね。


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国内で発見されたその名も「ヤマトクジラ」
これまで紹介した「ハクジラ」の仲間ではなく、「シロナガスクジラ」に代表される「ヒゲクジラ」の仲間です。
といってもこの姿では「ハクジラ」のように見えますが、説明を見ると「ヒゲクジラ」への移行期にあたる種のようです。

「ヒゲクジラ亜科
 ヤマトクジラ  Cetotheridae gen. et sp. indet.  後期・漸新世(ぜんしんせい)
 ■頭骨は非常に扁平化しています。外鼻孔はかなり後退し、吻部(ふんぶ くちばし)の中ほどに開いています。
  上顎の腹側と下顎の背側に歯茎溝(しけいこう)と思われる凹み(くぼみ)が見られます。
  ハクジラからヒゲクジラへの移行期の状況を示すクジラの一つとして注目されています。
 ■ニュージーランドのマウイセタス(Mauicetus)に似た点が多いのですが、北半球と南半球のケトテリウム類の進化を
  考える上で、両者の系統関係がどうなるか、強い関心がもたれています。
  産出地 北九州市若松遠見浜付近海岸 芦屋層群  原標本 北九州市立自然史博物館所蔵」



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最後に現生2種の骨格標本を。
まずは「シロイルカ」、またの名を「ベルーガ」
前回紹介した「シャチ」と比べると、頭の大きさが全体的に小さい感じがします。
頭部に大きな「メロン」という組織を持っているからかも?

「ベルーガ(シロイルカ)
 英名 Beluga/White whale  学名 Delphinapterus leucas
 体長 3.6m  年齢35才以上(雄)
 ベルーガは北極をとりまく冷たい海に暮らすクジラの仲間です。冷たい海でも体温を保てるように
 体は厚い脂肪に包まれています。体は白く、背びれがありません。胸びれは大きくうちわ状で、おとなのベルーガは
 先がカールします。
 このベルーガは1999年7月にロシア白海で捕獲され、2001年4月から2005年10月までの4年半の間、
 名古屋港水族館で飼育されていたオスのベルーガから作製したものです。体重は950kgでした。」



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もう1種は「キタトックリクジラ」
「シロイルカ」以上に大きく膨らんだ前頭部が特徴的で、横から見てみるとかなりのインパクトですよ。
またあごの骨はくちばしのように前方に長く伸びています。

「キタトックリクジラ
 英名 Norhtern bottlenose whale   学名 Hyperoodon ampullatus
 体長 6.97m  年齢 3~4才(雄)
 キタトックリクジラは北大西洋北部・水温マイナス2~17℃帯に住むアカボウクジラ科に属するハクジラです。
 雄は雌よりも大きく平均7.5mにもなります。頭骨(とうこつ)には一対の平行する大きな隆起があるのが特徴で、
 エコロケーション(反響定位)の重要な役割を果たしているといわれます。下顎(したあご)の先端に2本の
 円錐状(えんすいじょう)の歯があり主にイカを好んで食べています。
 この骨格標本はアイスランドの海岸に漂着した個体から許可を得て作られました。」



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下あごの先端にはこのようにちいさな2本の歯がついています。
この標本を見るとこのほかには歯がないようなんですが、どうなんでしょうね??


すべて D700+24-120mmF4G/VR


次回は、メインプールでのイルカショーです。
by sampo_katze | 2016-05-06 21:00 | 水族館 | Comments(0)


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